銀杏(ギンナン)雑感

記録的と言われる長雨が、夏から秋への季節のうつろいを覆い尽くしてしまい、風情もへったくれもないまま一気に晩秋へと突き進んでいく2026年10月にこの記事を書いている。

もう なんというか。聞きたくもない。記録的なナントカ。

思えば自宅のベランダでミニトマトの水耕栽培がまともにできなくなって10年くらい経つ。強過ぎる日差しで培養液が異常高温となるのが原因だ。プランターに断熱材を巻いて根回りを保護しても、外気温そのものが高いせいで葉や茎がストレスを受けてあっというまに病気になってしまう。いい加減嫌気がさして3年前に手作り水耕栽培セットと支柱を全て粗大ごみに出してしまった。初夏から秋まで毎日食べきれないくらいのミニトマトが収穫できたベランダがめっきり寂しくなった。

一方で、「記録的猛暑」も毎年毎年だと、気象庁の表現にも限界が出てきてむしろ面白い。「災害級の暑さ」の先はどんな表現方法が待っているのだろう。

大げさな表現に困ったら最期は神話に頼ってみよう。ネタに困った時は昔話か神話に限る。

「ヘパイストスも仕事を投げ出す暑さ」

「アグニやカグツチでもヤケドする暑さ」

例えとしてはわかりくいか。注)

長雨の走りのころ、たしかにキンモクセイの香りを感じた記憶があるのだが、いま再びキンモクセイが香っているのは、噂に聞いた二度咲きという珍しい現象だろうか。

久々に拝む綺麗な青空とキンモクセイの香り。少し肌寒さを感じる空気感。

ライラの散歩の途中で出会う野菜の無人販売所では、秋の風物詩であるギンナンがお買い得価格で並んでいる。

キーボードにギンナンと打ち込むと、銀杏と漢字変換される。そして何故かイチョウと打ち込んでも銀杏と変換される。なんじゃこれと思って、イチョウについていろいろ調べると、実に様々な情報が得られて面白い。

名前の由来や海外での呼び名や学名の成り立ちが、諸説あり過ぎで結構めちゃくちゃに混乱しており、決して正解にたどり着けない。葉がアヒルの足に似てるから中国語でイーチャオ(鴨脚)って解説を読んだ時には、「正解キター!!」となったが、これも諸説の一つに過ぎないらしい。全ての諸説の末尾に大阪弁の「知らんけど」がつくイチョウとギンナンの語源。真面目に調べれば調べるほど 何やねん! である。注)

さらには「植物界の生きた化石」だったり、同じ仲間は地球上に一種類しかいなかったりする。実をつけるための過程で「泳ぐ精子が存在する(そういえば理科で裸子植物って習ったよな)」とか。パっと見は「秋の紅葉が見事な落葉広葉樹」なだけに、普通の木を期待していると確実に裏切られる。中身はわけのわからない生き物なのである。なんだよ 垂れ乳がぶら下がる木って(笑)。

実(み)に注目してもわけがわからない話が次々でてくる。

ギンナン(銀杏)は文字通り「銀の杏子」なのだが、これもまたややこしい話だ。

イチョウの種子の中種皮(硬殻)←八百屋さんで売ってる状態。 と、アンズ(杏子)の果実の核←いわゆるアンズの種(タネ)。これらは形がほぼ同じなのだが、アンズと違ってイチョウのは白く輝いているから銀杏という説と、イチョウの外種皮はオレンジ色でアンズの果実に似ているが、白い粉を吹いたようになっているため、たわわに実ったイチョウの木に陽があたると銀色に輝いて見えるから銀杏という説の二つがあるのだ(知らんけど)。ちなみに私は後者のほうが好きだ。

そもそも裸子植物であるイチョウと被子植物であるアンズを並べて表現するから解剖学的に説明が難しい話になるのだ。私たちがジャムにしたり干して食べるアンズのオレンジ色の果肉の部分と、ギンナンのあたかも果肉っぽいブヨブヨしたオレンジ色の部分は、解剖学的には全く異なるものである。注)

ギンナンの、オレンジ色でブヨブヨの、いかにも果肉っぽい部分は、遠目には美味そうな果物に見えるが、いざ近づけば腐った雑巾のような悪臭がするうえに、皮膚に触れると炎症が起きる。お願いだから普通の子でいてほしいと願わずにいられない。

ようやくたどり着いたギンナンの胚乳(珠心)は極めて美味だけれども、毒性物質が含まれているので、煮ようが焼こうが毒は消えず、沢山食べたら中毒を起こすらしい。ただし、どのくらい食べたら危険っていう明確なガイドラインはないらしい。個人差があるからだそうだ。知らんけど。

どの角度から掘り下げても イチョウってぇのは カオスな植物である。

話を本題の銀杏(ギンナン)に戻す。

言ってる端から銀杏と漢字変換されてイチョウだかギンナンだか判らなくなるが、本題はギンナン。すなわち、硬くて白くて八百屋さんに売っている状態のギンナンの話だ。

そして せっかくだから獣医っぽい話をしたい。

さて。ギンナン。

愛犬家の皆様にご注意いただきたい事がある。

木から落下したブヨブヨのオレンジ色の悪臭ぷんぷんのアレを、まさか犬が食べるとは思ってもみなかったが、どうやら好んで食べる子もいるらしい。

そして、中途半端に割れた殻がイガイガと腸の中でスタックして、重篤な腸閉塞を起こしてしまう事があるのだ。梅干しの種が先っちょの尖がった部分が腸にひっかかり、そのまま種が倒立して完全腸閉塞を起こした症例では、あまりの激痛に犬がごろんごろん転がって悲鳴を上げ続けていた。梅干し一個でもあれなのだから、ギンナンの割れた殻がガチャガチャと腸に詰まったらどんなに痛いか。想像するのもしんどい話だ。

地面に落果した悪臭ただようギンナン。あんなものはタヌキしか食べないと思っていたが、考えてみればタヌキもイヌ科である。ギンナンが落ちる季節。通行人に踏みつぶされて中途半端に割れたギンナンが散乱する場所は危険である。そもそも犬が踏んだら家が臭くなるので、近づかないほうが無難なのであるが、一瞬のスキをついて、ガツガツガツガツっとギンナンを食べる子がいるとなると、散歩中にギンナン臭がしたら足元にご注意いただき、決して近づかないでいただきたい。

タヌキしか食わない。と書いたが、正確には私の地元である吉祥寺近辺に生息する野生動物では、アライグマとハクビシンとタヌキが木からおちた臭いギンナンを食べるらしい。知らんけど。中でもタヌキがヘビーユーザーと言っても過言ではないくらいギンナンを好んで食べる事が知られている。

タヌキには排泄物を一か所に溜めるという習性がある。タヌキのウンコの山。これを「タヌキのため糞」と言うが、家屋に侵入したタヌキが床下や屋根裏をためふんの場所にしてしまうと、とてつもない悪臭と共に家の物件価値が下がり、修理費が大変なことになるという事例も報告されている。

溜め糞はとんでもなくクサいので、あまり近づきたくないシロモノであるが、よく観察すると未消化の果物や木の実の種が大量に含まれていることに気が付くだろう。

オレンジのブヨブヨのギンナンを食べまくったタヌキの溜め糞には、皮が消化されて、中の固い種だけとなったギンナンが山盛りになる。ちょうど我々が購入する処理済みのギンナンと同じものがタヌキのトイレに山積みとなるわけだ。

野生動物の営みから季節のうつろいを感じて幸せを感じる私のような人種は、タヌキの溜め糞にギンナンが山盛りになると、ああ秋が来たなぁと フワフワの冬毛のタヌキの美しさに想いを馳せたりする。

八王子のとある公園で。

タヌキの溜め糞を観察していると、そこにギンナン拾いの主婦の方がやってきて、その溜め糞を見て 「まぁああ 皮の取れた銀杏がこんなにたくさん! もらっちゃって いいのかしら???」 と大喜びで拾いだした。ちなみに もらっちゃっていいのかしら?は誰に対する問いかけだったのかはいまだに謎である。少なくともタヌキに対する問いではないと思う。注)

 ギンナンを拾いに来ている人だったので手袋はつけていたけれども。あなたが拾おうとしているのは、ウンコですから!! そもそもギンナンが臭いものだから、ため糞の匂いをウンコだとは思わず気にならなかったのかもしれないが、大量のブツを袋にいれて 嬉しそうに帰っていかれた。 教えてあげたほうが良かったのかな。 いまでもギンナンを見るたびに思い出して、ちょっと心が痛む。

ウンコ関連で余談を続けたい。もはや獣医っぽい話でもなんでもない。

インドネシアのコーヒーで コピ・ルアク という銘柄がある。

コピは コーヒー。 ルアクは ジャコウネコという意味である。

高級コーヒーとして有名なコピ・ルアク。生のコーヒーの実をジャコウネコに食べさせ、その糞から回収したコーヒー豆がコピ・ルアクだという事は、実物を飲んだ事のない人でもご存じであろう。

そこで私は閃めいた。あのお母さんが拾って行ったギンナンは、さしずめ「ギンコ アンジン ラクン」。 インドネシア語でタヌキは(アンジン・ラクン)ギンナンは(ギンコ)。知らんけど。  一味違う高級ギンナンとして、旦那さんのビールのお共になったのではないだろうか。

コピルアクは、ジャコウネコの体内での消化を受ける影響で、カフェインが減少したり、雑味が消えてまろやかな味になると聞く。知らんけど。あの日、八王子のお父さんがビールのお共に食べたタヌキの糞 もとい 「ギンコ アンジン ラクン」は、毒性が軽減されて、いくら食べても大丈夫なギンナンになっていたかもしれない。興味のある方は今からでもイチョウ並木のある多摩丘陵にタヌキのため糞を探しにいったらいかがだろうか。拾い放題のブツが山盛りになっている頃だろう。注)

注)ヘパイストスは、ギリシャ神話の神様である。鍛冶工房を持ち、炎をあやつり、他の神々のために武器を鍛造する仕事をしている神様らしい。知らんけど。おそらく灼熱の中での重労働に耐えうる神様であろうが、ここ数年の猛暑で仕事に支障がでているに違いない。

一方、アグニはインドの火の神。カグツチは日本の古事記の神様である。カグツチに至っては、産んでくれた母親(イザナミ)がカグツチを産んだ拍子に股間に大やけどをしてしまい、それが原因で亡くなっている。ちなみに、怒り狂ったお父さん(イザナギ)に剣で首をはねられるという、なんだかめちゃくちゃで救いようのない話でもある。ちなみに、傷心のイザナギが、黄泉の国へイザナミを迎えに行く話は誰もが聞いたことがあると思う。ヤケドがただれて全身にウジが沸いた姿をイザナギに見られたイザナミは「だから振り返っちゃダメっていったでしょうがぁああああ!」と田中邦衛さんの口調でブチ切れて、わざわざ命がけで迎えに来てくれたはずのイザナギを殺そうとするという、これまためちゃくちゃな話である。「奥さんとの約束はちゃんと守ろうね」という些細な教訓を伝えるのに、ここまでセンセーショナルな逸話を用意しなければならなかったあたり、古今東西、旦那というものは奥さんとの約束を破りがちな生き物なのだろう。

もっとも、私の興味の対象は、黄泉の国に生息するハエはどんな姿をしたハエなのかということと、イザナミ様は広範囲重度熱傷を負った上にハエウジ症となっても敗血症にならないタフさがあるのに、なんで黄泉の国にいってしまったのか?という事に尽きる。イザナミ様には死なない丈夫さしか感じないし、黄泉の国で昆虫採集をしたら絶滅した太古の巨大昆虫なんかもネットインできそうでワクワクする。

注)ギンナンの外国語名やら学名やらは、記載論文の読み間違いやら誤字脱字の転用やらで大混乱している。事のいきさつを延々と読んでいるといいかげん飽きるし、結局は明確な答えが得られないのでイライラするが、ネットもチャッピーもない時代に、世界中の古い文献を必死に調べぬいて、ギンナンの名前の由来を掘り下げた先人の根性には尊敬の気持ちしかない。

注)裸子植物であるイチョウ 被子植物であるアンズ。学研や小学館の植物図鑑や高校の生物の教科書を引っ張り出してみると、両者の違いが改めて理解できると思う。ああ!ギンナンのこの部分ってアンズのこの部分に相当するのね!と腑に落ちる喜びと、理解に要する時間を天秤にかけたとき、知的好奇心の満足度が勝ったアナタはまだSNSに脳を破壊されていない  と思う。引き続き、読書の秋を静かに堪能していただきたい。読書のお共は薫り高きコーヒーがいいだろう。コピルアクに想いを馳せながら。

注)ギンナン拾いのあと、実際に食べられるようにするまでの道のりは遠い。そもそも拾う段階で臭いし、かぶれるし。特にブヨブヨからタネを取り出すプロセスに苦労する人が多い。現地で足で踏んで、殻を取り出して持ち帰って洗うという人もいるし、全て持ち帰ってからバケツに入れてしばらく水につけるという人もいる。

ユーチューブでも自慢のオリジナルメソッドを紹介している人の動画が散見される。潰してタネを取り出すときに汁が飛ぶから現地で踏み潰す、水につけて腐らすということになっているが、私はどちらの方法もとらない。腰が痛くなるからいちいち踏んづけては出てきた殻をかがんで拾うなんてことはやってはいられないため、短時間で拾いあつめてそのままとっとと持ち返る。

悪臭ただようバケツを何日も置いておく場所もないのでその日のうちに肉と殻を分ける。汁が飛ぶ件に関しては、水を張ったボールの中で潰す作業をし、肉はゴミ袋へ投げ込み、殻はボールに残す。一定量の殻がボールに溜まったら、農業用収穫袋というメッシュの袋に水ごと殻を流し込む。

これを繰り返して全てのギンナンが裸になったら、収穫袋の口を締めて、水を張ったボウルの中でゴリゴリと揉みしだいて殻に付着した残りの肉を取り除いていく。時々水を変えながら何回かゴリゴリすると、袋のメッシュと殻の摩擦および殻どうしの摩擦で肉は綺麗になくなる。普通にバケツに入れたギンナンを米を研ぐように洗うよりはるかに効率よく表面が綺麗になる。

これは、オクラにヒントを得て考えた方法だ。買ってきたオクラは袋から出さずに、袋ごと流水中でゴリゴリすると、メッシュとオクラとの摩擦で棘状の産毛が綺麗になくなる。そのためにメッシュの袋に入れて売ってるんだ!と聞いたことがある。これはギンナンを洗う時にも応用できると考えたわけだが、やってみると実に都合がよかった。

注)知り合いで、ハクビシンを飼っている人がいる。ちなみにハクビシンは狩猟対象の生物であるため、猟期間において、自宅敷地内で、素手で保護した傷病個体であるため、その個体の終生飼養は合法である。このハクビシンは、命を救われた恩があるのか、飼い主には従順であるのだが、このハクビシンの餌皿に、焙煎前の生のコーヒー豆とすりおろしリンゴを混ぜて入れて、おやつとして食べさせたら、コピルアクっぽいものができないだろうかと思案中である。

クラウドファンディングでアイディアいっぱいの返礼品を用意している動物園が多いが、ジャコウネコ科の生き物を飼っている動物園は、ぜひトライしてみて欲しい。熱帯温室も併設している園館であるなら尚更である。温室でコーヒーを育て、赤い実を収穫して、ジャコウネコに食べてもらって、根気よくコピルアクを回収して売店で売るのはどうだろうか。それも、ネットが騒然とするようなめちゃくちゃな高額で販売するのだ。儲けたお金でジャコウネコ舎が広々と新築されたり、下痢嘔吐で怒り心頭の被害者の慰謝料にあてたりもできる。

動物虐待でやり玉にあがりがちな、狭い檻でコーヒーしか食わしてもらえない可哀想なジャコウネコと違って、「おやつ とか ご褒美」の感覚で甘いコーヒーの果実をもらい、普段は栄養バランス満点の餌と広々快適な空間で暮らすジャコウネコから、ちょっとだけ分けてもらったコピルアクなら人気が出そうな気がする。

注)関西人から指摘を受けたので追記する。

知らんけど を多様するのは 筆者の逃げである。うんちく満載ふうの文章において、内容の正確性は必須であるが、筆者は時としてテキトーな事を言う。

そういう場合の筆者は大阪弁でいうところの『ちょける』に精神を全振りしている。米津玄師さんも嘉門達夫さんも職業という点においては同じ属性であるが、『音楽性』というものを考えたとき、同じだと思う人はいないであろう。 私はどちらかというと嘉門達夫さんとか どぶろっく さん寄りの道を歩む者であることをあらかじめご了承いただきたい。

それにだ!

うんちくの正確性など、今の時代なら誰しもが秒で確認できるであろう。あれ?と思ったらご自身で裏をとることをお勧めする。世は『自責』の時代である。

↑2026年 収穫





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